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ポートフォリオに載せない失敗の履歴書

ポートフォリオに載せない失敗の履歴書 制作物の“その後”まで考える責任

UEURA
DESIGN

デザイナーやディレクターとして長年仕事をしていると、忘れられない案件があります。

うまくいった仕事。
大きな反響があった仕事。
キラキラしたビジュアル。

そうした実績は、ポートフォリオにも載せやすいもの。

一方で、見た目としてはきれいに仕上がったにもかかわらず、
「本当にあの仕事は、クライアントのためになっていたのだろうか」と、今でも考え続けている案件もあります。

私にとって、そのひとつが30代前半の頃に担当した、ある縫製工場のカタログ制作でした。


「大手メーカーに見劣りしないカタログを作りたい」という依頼

ある日、縫製工場を営む社長から直接、カタログ制作の相談を受けました。

業界や商品の詳細は伏せますが、その工場は下請け・受注生産を中心に事業を行っていました。長年、大手メーカーから縫製の仕事を請け負ってきたものの、価格面では厳しい条件を求められることも多かったそうです。

社長は、その状況を変えたいと考えていました。

・自社製品を打ち出し、メーカーとして直接売っていきたい。

・そのために、大手メーカーに見劣りしないカタログを作りたい。

・業界に一矢報いるようなものにしたい。

そういう相談でした。

話を詳しく聞くために、私はその工場を訪ねました。テナントビルの一室にある、小さな縫製工場でした。

正直に言えば、その場で私は「これは難しい」と感じました。


いいカタログ」だけでは、事業は動かない

社長はおそらく70歳前後。社員はご家族が一名、手伝っている程度でした。

大手メーカーからの縫製業務を請け負う技術はある。けれど、営業担当はいない。デザイナーもいない。生産管理や販路開拓を専門に担う人もいない。

その業界は、ルート営業や展示会での受注、既存顧客との関係性が大きな力を持つ世界でした。大手メーカーの信用力や営業力が、受注に直結する業界でもありました。

つまり、カタログを一冊作ったからといって、すぐに注文が入るような構造ではありません。

当時の私にも、それはなんとなくわかっていました。

工場で、カタログに掲載する予定の商品も見せてもらいました。縫製は確かに上質でした。丁寧に作られていることは、見ればわかりました。

ただ、製品としてのデザインは弱かった。

一見するとそつなく仕上がっているものの、市場のニーズやウォンツを捉えているとは言いにくい。縫製の品質は高くても、商品の魅力が伝わりにくい。さらに、その課題に社長が十分に気づいていないことも、大きな問題のように思えました。

それでも、依頼は「大手メーカーに見劣りしないカタログを作りたい」というものでした。

そのレベルのカタログを作るには、フォトグラファー、ヘアメイク、外国人モデル、スタイリスト、スタジオ撮影が必要になります。結果として、見積金額は軽く100万円を超えました。

社長がその資金を貯金から出したのか、銀行や公的機関から融資を受けたのかはわかりません。

ただ、最終的にGOサインが出ました。


見栄えのするカタログは完成した。でも、受注にはつながらなかった

撮影は予定通りに進みました。
スタジオを手配し、モデルを起用し、商品がよく見えるようにビジュアルを作り込みました。

完成したカタログは、見た目だけで言えば悪くない仕上がりでした。
いわゆる「かっこいいカタログ」にはなっていました。

社長にも喜んでいただけました。

けれど、受注にはつながりませんでした。

そして数年後、その工場は廃業しました。

もちろん、廃業の原因がそのカタログ制作だけにあったわけではありません。事業環境、年齢、後継者問題、販路、資金、商品開発、営業体制。さまざまな要因があったはずです。


本当に必要だったのは、カタログではなかったのかもしれない

今振り返ると、あの案件で必要だったのは、単に「見栄えのするカタログ」ではありませんでした。

必要だったのは、事業の状況を整理すること。
商品そのものの魅力を見直すこと。
売り先を考えること。
営業体制をどう補うか考えること。
小さな工場だからこそ取れる戦い方を探すこと。

当時はSNSも今ほど一般的ではなく、せいぜいFacebookが広がり始めた頃でした。それでも、他の方法は考えられたはずです。

たとえば、小規模メーカーと組んで販売してもらう方法。
スタイリストやクリエイターと協業して、商品の見せ方から再設計する方法。
雑誌やメディアに取り上げてもらうための企画を考える方法。
大きなカタログではなく、まずは小さなWebサイトや営業資料から始める方法。
展示会出展や販路開拓まで含めて、段階的に予算を使う方法。

あるいは、そもそも「この依頼は、私たちの手に負える範囲を超えている」と判断すべきだったのかもしれません。

制作会社として受けるべき仕事なのか。
受けるなら、どこまで責任を持つのか。
成果につながる見込みが薄いと感じたときに、どこまで率直に伝えるべきなのか。

今なら、もっと早い段階で話すと思います。

「良いカタログを作ることはできます。ただ、それだけでは受注にはつながりにくいと思います」

「まずは商品設計や販路、営業方法から一緒に考えたほうがいいかもしれません」

「この予算をすべてカタログに使うより、段階的に検証したほうがいいのではないでしょうか」

当時の私は、そこまで踏み込めませんでした。


ポートフォリオに載せない失敗の履歴書

私は、そのカタログを自分のポートフォリオに載せていません。

現物がもう手元にないという理由もあります。けれど、それ以上に、あの仕事を「自分が手がけた華やかな実績」として見せることに違和感があるからです。

ビジュアルだけを見れば、キラキラした制作物です。
でも、その制作物がクライアントの事業にとって本当に必要なものだったかと問われると、私は今でも答えに迷います。


その制作物が、誰の何のために作られたのか。
どの課題を解決しようとしたのか。
納品されたあと、どのように使われたのか。
成果につながったのか―

本来は、そこまで含めて評価されるべき仕事だと思います。

その意味で、あのカタログは私にとって「失敗のポートフォリオ」です。

きれいに作ることと、役に立つことは同じではない。
わかっているつもりで、当時の私はわかっていなかった。

その問いを、私は今も持ち続けています。