デザイナー1年生が実践で学ぶタイポグラフィのキホン ~文字でこれだけ印象が変わる~
皆さん、はじめまして。
今年の4月に株式会社ステアに入社しました、河野(コウノ)と申します。
ホームセンター販売員という異業種から転職して早3ヶ月、デザイン業界初挑戦な私は仕事のひとつ一つが新鮮な経験である一方、今まさにひとつの悩みの壁に直面しています。
それが「こんな時ってどの書体を使うべき?」問題です。
基本的なことは勉強してきたつもりの私ですが、その通りにしてもいつも「なんか違う…」と色々な書体を試しては気付けばタイポ沼にハマり、10分、20分と過ぎていく時間。
そんな悩みを解決するために参考になりそうな書籍を読んだり、ネットで調べているなかで、せっかくならその内容を皆さんと一緒に共有できたらなと思いついた次第です。
「そんなこと知ってるよ」って方も復習程度に参考にしていただけると嬉しいです!
1.見た人の印象や感情を大きく変えるタイポグラフィ
まずはじめに「タイポグラフィ」とは簡単に言うと「文字のデザイン」の を指します。
それまでと言ってはそれまでですが、文字はただの情報伝達の手段だけでなく、文字ひとつで見た人の印象や感情を大きく変えることができる無限の可能性を秘めています。
特にグラフィックデザインの分野では、文字の要素が重要な意味を持つことになります。
心地よいデザインを発信するため我々デザイナーは日々、和文・欧文を中心に多種多様に展開されている書体の中から適切な書体を選択し、サイズをどれくらいの大きさに設定するかをそれまでの経験・知識・スキルで判断しています。デザインにおいて文字の力は無視できません。
今回はそんな書体の中から状況に応じて正しく使い分けるポイントや、少し踏み込んだ内容までお伝えできればと思います。
2.和文書体と欧文書体
まず、書体には和文書体・欧文書体と揃って大きく分けてセリフ体(明朝体)とサンセリフ体(ゴシック体)の2種類に分けられます。セリフ体は文字の端っこに小さな飾り(うろこ)がついており、クラシックで上品な印象を与え、一方でサンセリフ体はシンプルでモダンな印象を与えることができます。
「和文書体」
和文の基本とも言える「明朝体」と「ゴシック体」を並べてみました。
日本的な落ち着きを持った明朝体に対し、ゴシック体は力強さやどこかモダンな雰囲気を感じ取ることができます。和文書体は欧文書体と比べ、漢字やひらがな、カタカナと非常に種類が多く、それ故にレイアウト全体の雰囲気を掴みながら適切な書体を選ぶことがポイントになります。
「欧文書体」
「セリフ(serif)」とは欧文書体の先端についている装飾のことに対し「サンセリフ(sans-serif)」はその装飾がない欧文書体のことを指します。因みにこの「サン(sans)」はフランス語で「無し」という意味で「セリフが無い」ことを表しています。
それぞれに有名な書体があり、映画のタイトルや誰もが知る日本企業のロゴマークにも代表的な欧文書体が使われているため、普段何気なく眺めているポスターや商品のロゴにも目を向けてみると新しい発見があるかも知れませんね!
3.可読性の明朝体と識別性のゴシック体
それでは書体を変えるだけで読み手に与える印象が変わる例を実際に見てみましょう。
例えば、弊社の社名を明朝体とゴシック体で見比べてみると、明朝体は全体的にシャープな形状をしているという特徴から、例えフォントサイズが小さくなったとしても可読性に優れているため、新聞や教科書などの長文に適していると言えます。個人的に明朝体は女性が落ち着いた声色で丁寧に話しているようなイメージを思い浮かべられます。
可読性に優れた明朝体に対し、ゴシック体は縦横の線幅が均一であるため、安定感があり識別性に優れていると言えます。その特性から、瞬時の判断が必要になる道路標識や見やすさを重視した駅名標など、実は普段生活の中でよく目にする身近なものに多く採用されています。こちらは青年がハキハキと大きな声で話しているようなイメージがあります。
4.実はこんなにも印象が変わる!同じ書体同士の細かな違い
さて、ここまでは明朝体とゴシック体の基本的な読み手に与える印象について解説してきましたが、ここからはそれぞれ同じ書体同士を比較し、細かなディティールの違いやどれほど印象が変わるのかの具体的な例を見ていきましょう!
今回は和文書体にフォーカスし深掘りをしていこうと思います。
【明朝体同士の比較:小塚明朝とリュウミン】
まずは、明朝体同士の比較です。
明朝体は全体的にクラシックでエレガントな印象を与える書体になりますが、同じ明朝体でも微妙に印象が異なります。
・小塚明朝:小塚明朝はAdobeが開発したフォントになります。文字の線が均一で全体的にすっきりとしており、先端部分をシャープな形状で処理されていることで鮮明でクリアな印象になっています。特にこのフォントは「信頼性」や「洗練されたイメージ」を与えることができるため、伝統や文化的なコンテンツを扱う場面や、視覚的な美しさと可読性を利用して展覧会のキャプションやパンフレットの文言に使用すると良いかも知れません。
・リュウミン:リュウミンは伝統的な明朝体の美しさを保ちながらも、力強さと読みやすさを兼ね備えた書体になります。画線が部分毎に絶妙に調整されており、特に曲線部はしっかりとした太さがあり安定感が感じられます。先端の形状がやや丸みを帯びた形に処理されているのは小塚明朝との明確な違いにもなります。書籍や新聞などの出版業界では比較的広く使用されており、その可読性と視認性の高さから実際に読売新聞や朝日新聞の本文では以前からリュウミンが採用されているといった経緯もあります。
【ゴシック体同士の比較:游ゴシックと筑紫A丸ゴシック】
次に、ゴシック体同士の比較を見てみましょう。
ゴシック体はモダンでクリーンな印象を与えますが、フォントの選び方によって大きく雰囲気が変わります。今回は特によく目にする機会の多い游ゴシックと筑紫A丸ゴシックを比較して詳しく見ていきましょう!
・游ゴシック:モリサワが提供するフォントでフトコロが狭めの漢字と小さめの仮名が組み合わさっており、丸みのある先端から柔らかさを感じる書体となっています。もとは游明朝と一緒に使用することを想定し、長文にも耐え得る設計をされたため視認性と可読性の両方を担保された書体といえます。その汎用性の高さからデジタルから印刷物といった様々な媒体に使用できるため、多様なメディアに展開することを想定したコンテンツに適しているといえます。
・筑紫A丸ゴシック:このフォントの特徴は何といっても「全体的に丸みを帯びた形状」です。これにより親しみやすさや柔らかさが感じられます。比較的カジュアルなデザインや子供向けの書籍、広告などに適しており、温かみとフレンドリーで和やかなイメージを印象付けることができます。
5.さいごに
いかがでしたでしょうか?
文字の世界は奥深く、今回紹介させていただいた内容は表面的な知識にはなってしまいますが「同じ文面でも書体を変えるだけで印象が大きく変わる」ということだけでも感じていただけたかと思います。このブログをもとに皆さまの「目的に合わせた最適な書体選び」の参考として少しでもお役に立てると嬉しいです!
今後も弊社のメンバーがデザインに関する様々な情報を発信していきますので是非チェックしてくださいね!